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  • 未来型文化都市空間「GREEN SPRINGS」

 

SEMBA PORTFOLIO STORY vol.10 GREEN SPRINGS

“想い”を託した空間が人が集まる空間に

1924年の航空機メーカーとしてのスタート以降
製品製造、不動産賃貸・開発、など様々な事業を展開してきた
立飛ホールディングス。
今回同社は、初のまちづくり型の開発に取り組み、
この4月にホテル、ショップ・レストラン、オフィス、ホールなどを有した
複合施設「GREEN SPRINGS」をオープンしました。

※所属部署は取材日2020年7月現在

  • 株式会社立飛ストラテジーラボ
    執行役員兼本部長 横山 友之様

  • 株式会社船場
    CREATOR事業本部
    SC綜合開発研究所所長 深井幹夫

  • 株式会社船場
    CREATOR事業本部
    荒木沙耶

白紙からスタートした、ビッグプロジェクト

立飛ストラテジーラボ 横山様
足かけ5年のプロジェクトでしたが、その始まりはこの土地の取得からでした。「GREEN SPRINGS」の用地は、戦前は立川飛行場だったと思いますが米軍が撤退してからは財務省の管轄でした。過去にも何度か入札の話はあったのですが、立川駅の近くでまとまった敷地だからみんな検討はするものの制限が厳しく、何処も手をあげなかったようです。2014年の秋口、再度入札の話になったとき、他社がこの土地を切り売り型で活用するプランで話を進めていたらしく、立飛ホールディングス(以下「立飛HD」)の社長 村山がそのように使うのは如何なものか?ということで急遽手をあげました。
普段、用地取得の際、価格はもちろん、開発の構想プランも持って行きますが、この時は具体的なプランがないまま札だけ入れて、結果落札しました。
2015年の2月に村山と僕と、船場の深井さん、プロジェクトマネージャーの久保さん、ランドスケープデザイナーの平賀さん、山下設計の古澤さんで新年会をする機会がありました。たまたま落札の報告を受けた日が、新年会の日と重り、本用地を落札したという報告から宴が始まったんです。(笑)


船場 深井
冒頭乾杯した後に、社長からちょっと報告があると告げられました。
「たまたま今日、この土地を落札したから、よろしく!」って言われたのですが、誰も、入札の話も知らないので、なんのことだか最初全然わからなくて。
衝撃でしたけどね!相当大きな土地ですし制限や規制も多く、話を聴けば聴くほど、かなり大変なプロジェクトだと感じました。
その規制は、敷地が約4万平米の内、4分の1である1万平米は、今までにない多摩地区オンリーワンの施設をつくりなさいという、かなりアバウトな開発与件だったのです。

横山様
美術館、博物館、音楽ホールなどの文化施設は民間でやるには、収益が難しくなかなか手が出ないものなのです。それを1万平米分・・・。立地条件が良いのに、なかなか入札が不調だったのはこのような制約があったからでした。普通は3年間くらい開発のプランを構想し慎重に手をあげるところです。

深井
落札した段階で、取得日から3年以内に着工とされていましたが、プランはまっさらですからね。

制約から生まれたオンリーワンの形

横山様
プランは白紙に近い状態でしたが、深井さんをはじめ、コアなメンバーとは付き合いが長く、深井さんとはそれこそ10年くらいになりますかね。他のプロジェクトを通じていろんな話はずっとしてきました。ですので、コアなプロジェクトメンバーたちの意識的共有みたいなのは割と形成されていて、同じベクトルを向いて進んで行くコンセンサスはあったと思います。その意味ではプランはないけど、ベクトルの形成は早かったと思います。

深井
立川は駅を中心に駅ビルや百貨店等、大型商業施設が集積した商業構造ですが、当計画地は駅から一定の距離があることから、特に商業にとっては立地創造型の開発であると考えました。
結果としては、ホテル、ホールは直営となり、オフィス、商業を組み込み、更には地元信用金庫の本店が移転、という現プランになりましたが、最初の頃は、試行錯誤、色々な紆余曲折の連続だったと思います。

横山様
落札後まず最初に行ったのは今回の開発を担う会社の設立です。色々なことを決定し進めて行く上で、社長直轄のプロジェクトとなるように、2015年の7月、立飛ストラテジーラボを立ち上げました。
このプロジェクトに合わせた新しい文化、感度で進めていかないといいものは出来ないと思い、立飛HDとは別の体制でこのプロジェクトを進めていきました。
立飛HDのプロジェクトとして、従来の権限構造下で進めても、とてもこの期間では開業できなかったし、なにより新しい発想で新しいものを創ることはできなかったかも知れません。

深井
新たな推進体制により色々な決め事をするのに、横山さんを中心に村山社長との素早い方針決定がなされることが、短期間で事業推進ができたことの大きな要因だったと思います。
プロジェクトの課題や判断は全て横山さんに集中するため大変な立場だったかと思いますが、これも村山社長の横山さんにかける信頼の厚さだと感じました。社長はどんな時も、横山さんがどう思うのか?どう考えるのか?どうしたいのか?と尋ねられ、「横山が決めればいいんだよ」とおっしゃっていたのが印象的でした。

横山様
プロジェクトを推進して行くなどの前向きな苦労は、ポジティブに捉えられたのでそれほど大変ではありませんでした。有難いことに、社長と私で方針の共有だけ出来れば、具体的な采配のほとんどは任せて頂けたので、着工日まで毎日リミットが近づいている中、スピード感をもって進めて行く事が出来ましたね。


深井
進めて行く上で、一番の課題は制約があったオンリーワンの施設でした。当初は、立川から未来の子供たちのココロとカラダを創造するというテーマで検討した時期もありましたが、事業運営者や機能編集上の課題も多く、開業までの期限を鑑み早い段階で諦めました。

横山様
そこで、オンリーワンの文化施設を開発するために現在、立飛文化施設の理事長にもなっていただいた藤田さんを深井さんから紹介してもらいました。藤田さんはライブエンタテインメントの業界に精通している方で、見識も深いがゆえに、音楽ホールや劇場を民間のプロジェクトでやるのは難易度が高いということで、最初は反対意見でした。しかし、着工は刻一刻と迫るし、文化施設もつくらねばならないので腹をくくり、新しい可能性を模索し様々な検証を始めました。
多摩地域には収容人数が2000~3000人でクラシック専門でない多目的型のホールがなく、長期スパンで見れば民間でも事業ベースが見えたため、民間ホールに挑戦しようと決断しました。本格的にそう決めたのは、2017年頃だったと思います。

深井
立川市からオンリーワンの施設を求められていたため、建築面でも工夫が図られました。約120mのカスケードが設置されホールの上に登れたり、外の広場とつながり野外ライブも楽しむことができる、開閉型の今までにないホールができ上がりました。

人が“来たくなる”空間を創造するために

横山様
ノルウェーのオスロにある劇場や、アメリカのウルフトラップの劇場の事例を参考にしつつ、これらのアイデアをわたしたちなりに咀嚼し、今のオンリーワンのホールになりました。今の時代、エンタテインメントのジャンルはボーダレスになっているので、多目的利用ができることで、新しいプログラムを体験できる唯一無二のホールになったと思います。
人々の生活に文化やエンタテインメントを提供するために「GREEN SPRINGS」をつくりました。また、特定の目的がなくても「行きたくなる場所」というレベルの環境性を造りたいと思っていました。

深井
「GREEN SPRINGS」のプロジェクトでご一緒したランドスケープデザイナーの平賀さんとは、このプロジェクトの少し前に東京都の南池袋公園の再開発プロジェクトでご一緒しました。地域で割とダークなイメージを持たれていた公園を、カフェの導入や、公園本来の魅力を再生することにより、オフィスワーカーや家族、友人や恋人とゆっくりと時間を過ごせる公園にリブランディングしたのです。南池袋公園は、都市公園の持つ空間力と商業機能が融合することにより、新たな価値創造した事例だと思います。当計画でも公園が、人の集う中心的役割を担うことができると思いました。

船場 荒木
ここは更地の時、駅から7~8分かかり歩く人もまばらでした。でも、この「GREEN SPRINGS」ができたことによって、多くの人が「来たくなる場所」として、わざわざ目指して集まる場になったと感じます。

深井
今回は、村山社長と横山さんの“想いをカタチにする”いう強い意志をプロジェクトメンバーみんなが共有できたことも大きいと思います。そうでなければここまで短期間にまとまっていかなかったと思います。

荒木
テナントリーシングの時もそうでした。全く興味ない人は、「GREEN SPRINGS」のコンセプトより、立地や、駅からの距離、着工前の人通りを気にして、なかなか首を縦に振ってくれませんでした。出店に興味を持たれたのは、コンセプトに共感してくれた方々です。そういう想いが伝わったテナントが集まった結果、人が「来たくなる空間」ができたのだと思います。

深井
前例のない立地創造型開発だからこそ、開業を想像してもらい、未来の新たなカタチに投資してもらうことが必要だと思います。テナントの方と交渉する際は、決定権のある方に直接お話しさせて頂いた方が、空間の価値をスムーズに理解していただけたと思います。今回は多くの方々にコンセプトを評価して頂いたのも事実です。新たな施設開発の可能性を感じつつも、駅からの距離や開発前の全面通行量から、収益性が想像できず、出店に至らなかったことも多くありました。その点は、開発段階の生みの苦しみでした。そういった意味では、コロナ禍でも開業後の人の流れや人の集まる様が最大の評価になったと思います。

横山様
今回のプロジェクトは先進国の今後の都市開発においてどうあるべきか?という問題と密接だと思っています。駅から近い、人通りが多いなど立地の良さでビジネスをして行くというのはこれまでもそうでしたし、これからも変わらないと思います。
今後経済が低成長化していくと、郊外はどうやって生き残って行くか?という問題に直面しますが、そういう場合はその地域のポテンシャルに根差して強いテーマを持っているという場所でないと生き残れないと思っています。テナントの中にはそういう現象に気づいている方もいて、それがさっき荒木さんの言っていた、感度の高いテナントなんだと思います。
この「GREEN SPRINGS」は、今までの物差しで測るのではなく、どういう空間を目指しているかという私たち開発チームの“想い”と、それに賛同してくださった方々と一緒に作り上げたプロジェクトとも言えますね。